第14回ゲストトーク 加治 慶光氏

国益を得るか、グローバルな視点で考えるか

私が普段考えていて結論が出ていない内容に本日は皆さんの意見をお伺いしてみたいと思い参加させていただきました。

皆さんがどんな話をしているのか77会のHPを見てみたところ「これからの日本の未来を話そう」とありました。「日本を世界を楽しく面白くしていきたい」これは皆さん賛同されていることですか?
(一同挙手)

問題提議

では、本日はどういった趣旨で意見を伺いたいか。私の仕事とも重なるのですが、私はグローバルコミュニケーションズオフィス(内閣総理大臣官邸国際広報室)という部署に勤務しており、世界に日本の情報を提供することを仕事としています。従ってグローバルという視点でお話をしたいと思います。

77会のHPに掲載されている記事を全て読みました。過去の様々なゲストやメンバーがこういったことを言っています。

まず、発起人の挨拶

松嶋さん:世界に出ることがすべてではないが、日本人であることを誇りにしたい

ゲストスピーカーの発言を引用してみます。

田村さん:日本は2050年に世界何位になると思いますか?このままだと8位に転落します
猪子さん:日本人が無意識に受け継いでいる文化や空間認識は、世界に出ていくにあたり日本人の強みになる
岩瀬さん:日本は文化や技術の評価も高い、また高齢化社会の最先端であるので日本が困っていることを発信するだけで世界にとってはすごい情報になる
外尾さん:地球上にはそれぞれの国だけでは解決できない問題が多数あり、人類が一緒に考えなければいけない時代が来ています

またメンバートークでは、

高田さん:海の学校を通してより強い日本人、より強い日本を世界に打ち出していきたい
田中さん:日本の良さを外に広めつつ国内にフィードバックしていきたい
古府さん:世界中の人々の食を最も豊かにした会社と呼ばれるようにしたい

といったコメントがありました。このコメントには相ことなる2つの考え方があり、根本的に大きくことなる2つのことを言っています。一体何でしょう?

グローバルな人材とは

配布する記事を読んでみて下さい。
朝日新聞デジタル:(日曜に想う)グローバル人材ってだれ? 論説主幹・大野博人 - ニュース

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グローバル危機が議題の国際会議に次のような2種の日本人がいたと想像してみる。
①    日本代表団の一員。堪能な語学などを武器に交渉を巧みにこなし、国益を確保した。
②    国際機関のメンバー。抜群の能力をフルに生かして各国から譲歩を引き出した。問題は解決に向けて前進したが、日本も痛みを強いられることに。

国益を確保する①か、グローバル益を優先する②か。
どの社会のために働くか。この問いには、だれもが納得できる答えがなかなか見つかりそうにない。
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国益を得るかグローバルな視点で考えるか。
この二種は普段我々はあまり意識していないのですが、勉強する時、成長していく時、仕事を選んでいく時に、この2つの視点で見てみると、全く異なるプロセスがそこにあります。
皆さんに問いたい、一緒に考えたいのは、この記事に最後にある「どの社会のために働くか?」ということです。

どの社会なのか?日本だけなのか、世界なのか?

どの社会のために働くのか

民間企業という社会

ここから少し私のお話をします。
私がグローバルな視点を持ち始めたのは1992年シカゴの広告代理店に勤めていた時からです。その後、大きな転換期となったのは2007年10月24日、日産に勤めていた時でした。その日、Nissan GT-Rという非常に高性能な車を東京モーターショーで発表しました。日産のブースは前回比1.3倍くらいの集客がありました。

一方、当時に何が起こっていたかというと、東京モーターショーの来場者が前回の150万人から140万人に減少し、GM、Ford、Chryslerといったアメリカ3大自動車メーカーの役員が誰も来ませんでした。またGT-Rやスカイラインといった車の周りにはインドや中国の技術者たちが群がって、技術を学ぼうと大変な熱気でした。この3つを組み合わせると日本の基幹産業である自動車産業は危険な状態にあるのではないかと感じたのです。なぜなら320km出せるGT-Rが実際にその性能を思い切り発揮できる場所は地球上では少なく、その先には真実がなく、もっともっと、例えば「環境に優しい」といった技術が日本から出て行かなければ、自動車産業自体が滅びてしまうのではないかと思ったからです。日本の就労人口6000万人のうち8%くらい、約480万人が自動車産業に従事しており、もし日本の自動車産業の競争力が落ちてしまえば日本という国の未来はないなと思いました。

その後、電気自動車の開発などに携わりました。電気自動車のような技術を日本がリードすることによって、日本が世界で勝っていけるのではないかと思ったからです。さらに2009年には東京オリンピックの招致委員会に入りました。テーマとしてはただスポーツの祭典ではなく東京に招致することで、日本の技術を一気に進めようということを唱えていました。1964年の東京オリンピック開催時は、首都高や東名高速ができました。オリンピックを呼ぶことでもっと新しい技術を進めようというのが東京都の考え方。その時も私はまだ世界で勝つということだけを考えていました。

当時、石原慎太郎さんと話してこういう考え方があるのかと驚いたことがありました。石原さんは日本が世界で勝つためにオリンピックを招致したかったわけではなかった。一言で言うとオリンピックを招致することで「人類を救いたかった」と言っていました。2016年に日本の技術が問われる、環境技術や太陽光発電の技術が世界中に広がり、インドや中国のような新興国に紹介される。それによって世界的な課題に対する解決策を見出すことができ、ひいては将来的に人類のような知的生命体が生き延びることができるのではないか、だからオリンピックを招致したいと言っていました。すごいなと思いました。その頃から、自分の心のなかでモヤモヤしたことを感じるようになりました。

--- どの社会のために働くのか ---

残念ながら2009年10月、招致活動には敗れて2016年の招致は叶わず、私は再び日産に戻り、電気自動車の導入に携わり、電気自動車を世界で一斉に普及させるため日米欧同時に発売することとなりました。

政府という社会

その後、現在勤めている内閣府広報室の仕事があると話がありました。電気自動車の導入はまず政府の支援が重要です。価格が比較的高く、国からの支援やインフラの整備が不可欠なので、初めに各国の政府と話しをしなければなりません。その際、日本国政府ともやり取りがあり、もしかしたら自分の仕事の経験が政府の仕事に役立つのではないかと思い、政府に入りました。

その後、入ってすぐに3ヶ月後に震災に見舞われたり、政権交代があったりと様々な変化があったのですが、いまだに自分はどの社会のために働いていくのか?と逡巡します。安倍政権が「世界に勝つ!」と政権を打ち出すと、日本人としてそうあるべきかと思いますし、世界フードプログラム(世界中に食料を行き渡らせるプログラム)を見れば、世界のことを考えます。TEDで世界フードプログラムの代表ジョゼット・シーランが行ったプレゼンテーションがあります。彼女はアフリカの子供たちをスライドで見せ、数秒に1人ずつ消していきました(その割合でアフリカの子供が飢餓で亡くなっている)。それくらいアフリカの食料供給は難しく、日本のような国が食料を生産・保存・供給の支援できる余地があると唱えました。日本はドイツとイギリスを足した規模のGDPがあり、飢餓もなく、70年間戦争もせず、安心で素晴らしい国です。果たしてそんな国が自分の国のことだけを考えていて良いのか? もっと世界のために出来ることをしなければいけないのではないか、自問自答しています。

さて、皆さんは、一体どういった社会で働き、どうなっていきたいですか?

加治慶光(かじ・よしみつ)(内閣総理大臣官邸内閣広報室参事官(国際・IT広報担当))

青山学院大学経済学部卒。富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラにて、コカ・コーラ、ジョージア等担当。タイム・ワーナーにて映画宣伝部長として、“マトリックス”、“A.I.”などの作品を手がける。ソニー・ピクチャーズに移籍後バイス・プレジデントマーケティング統括として“スパイダーマン”、テレビアニメ”鉄腕アトム”などに関わる。その後、日産自動車にて高級車担当マーケティング・ダイレクターとしてシーマ、フーガ、ティアナ、ティーダ、スカイライン、NISSAN GT-Rなどの市場戦略構築・実施を指揮後関連会社オーテックに出向、海外事業部部長に。米、欧、亜における海外事業戦略構築・実施を担当。後、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にエグゼクティブ・ディレクターとして出向、帰任しゼロエミッション事業本部主管兼グローバルマーケティング本部主管として、Nissan LEAF世界導入に参画。2011年より現職。日本ブランド海外発信、クール・ジャパン、SNS、リスクコミュニケーションなど省庁横断活動に従事。
ケロッグクラブオブジャパン会長。グロービス・パートナーファカルティ。
http://www.academyhills.com/school/personal/tqe2it000000cgkl.html

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