第15回ゲストトーク 生駒芳子氏

「プラダを来た悪魔」のような生活? 実際には――そんな手ぬるくなかった!?

みなさん、今、35、36歳くらいですよね?

私がまさに30代半ばが人生の大転機でした。

だいたい女性の25〜35歳はいつも頭の斜め上の方でいつも鐘がなっているんです。「私、何かしなきゃ!」「どうしよう!」「もっとすごいことしたい!」とか。

私の1回目の結婚は早くて、その後、35歳頃離婚、再婚して、子供を産みました。それまではずっとフリーだったのですが、私は世の中の法則に反して、子供産んでからVOGUEを発行する出版社へ社員として入社したのです。

子供を産んですぐ、もうフリーはいやだと思ったのです。フリーの頃は好きなこと主体でやっていたので、パリコレやミラノコレクションへいつも自費で行っていました。私は、基本、現場主義。好きな仕事は自分で開拓するしかない、どこからも勝手には来てくれない、自分でやるしかない。だから自費で行っていたのです。ヴェネチアビエンナーレやドクメンタなどアートプロジェクトにも自費で行きました。そうした取材記事を新聞社や雑誌社に売り込んでも、なかなか受け入れてもらえず、私は結構、怒っていました。「こんなにいいネタがあるのに、どうして記事にしてくれないの?」って。日本の出版社は、外からの売り込み記事に対し、たいへん閉鎖的な体質があるのです。

こうなったら、雑誌社の中に入るしかない!と思っている頃、VOGUE創刊の話を耳にし、自ら売り込みに行って、VOGUEへ入社しました。

 

「VOGUE」を4年半、その後、「ELLE」の編集をつとめた後、「マリ・クレール」の編集長を4年半つとめました。その間はいつもパリ、ミラノコレクションに行って、まさに「プラダを着た悪魔」の生活でした!最前列でハリウッドスターと一緒に並んだり、席取り合戦したり!

みなさん映画「プラダを来た悪魔」をご覧になりましたか?

私、何度も「ほんとにあの映画のようだったんですか?」と聞かれたけど、必ずこう答えたの。「あんな手ぬるくないわよ」って。

VOGUEをはじめとしたこれらの雑誌は「セレブリティを取り上げる、セレブリティのための雑誌」。だから、もちろん編集長もセレブリティでなければいけないのです。いつもピンヒールで走らなきゃ行けないわけ!ピンヒール100m走があったら、私、絶対一番ですよ!!(会場笑い)

『今起こす革新が未来の伝統になる』 日本の伝統工芸を世界に発信していきたい

再びフリーになってからは仕事の幅がさらに広がり、ファッションだけでなく、アートの仕事も始めました。そしてもう一つはCOOL JAPANの委員です。政府のCOOL JAPANの官民有識者会議に参加していますが、その中で出会ったのが、伝統工芸でした。

これまでは私はずっと「洋物かぶれ」できたのですが、金沢の伝統工芸の里を訪ねた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けて、自分の中で「はっ」とひらめいたものがあったんです。運命的にそれと同時にフェンディから伝統工芸と組みたいとお話をいただき、フェンディと金沢の伝統工芸のセッティングをして、すぐ形にしました。

それが自分の中での非常によい経験となり、2011年から「WAO」という、『今起こす革新が未来の伝統になる』というビジョンをもとに未来型の伝統工芸作品を紹介するプログラムを始めました。今は連日、三重、岐阜、金沢など伝統工芸の里をいろいろ回っています。

ラグジュアリーブランドはほとんどクラフトマンシップから始まっています。エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトンもそう。

日本からはそのようなラグジュアリーブランドが未だ生まれていないので、自分のフューチャービジョンとして、伝統工芸から日本発のラグジュアリーブランドを生み出すことを目指したいと思っています。伝統工芸を少しでもいい形で、デザイナーさんと伝統工芸の里をつないでいって、どんどん新しい開発をしていきたいと思っています。

 

 ファション業界のウーマンエンパワーメントへの取り組み

女性力の活用、そして男性力と女性力のマッチングが重要

最後に今後、ウーマンエンパワーメントに取り組んでいきたいと考えています。

ファッション業界のウーマンエンパワーメントは非常に遅れています。アパレルも百貨店も商社も。未だ、幹部は男性しかいないのです。これは大問題です。

この状況を変えるために今年の秋から活動開始します。

私の経験から言えるのは「女性力は本当に重要になってきている」ということ。そのときに絶対に忘れてはいけないのは「男性力と女性力のマッチング」です。男性力と女性力は全く異なります。個体差なので、ある意味ジェンダー関係ないとも言えるのですが。例えば、女性の直感力、女性の方が社会に組み込まれていなかったので、発想が自由です。マハトマ・ガンジーの名言にも「女性の直感は、しばしば男性の高慢な知識の自負をしのぐ。」という言葉があります。それに対して、男性はずっと社会の組織の中にいるので、ルールを守ろうとするという習性、そして構築力がありますよね。あとはもちろん個体差、それぞれの持ち味もあります。

また、日本の社会において女性の進出が遅れている要因の一つに女性が昇進したがらない、という課題も実はあるんです。いろんな状況があって、今の日本の現状が生まれていると思います。

家庭でもシェアして、職場でもシェアしていくことで男性力と女性力がうまくマッチングができるとよりよい社会ができるのではないかと思います。

戦後半世紀くらい、日本はほとんど日本の文化をおざなりにしてきましたが、今はようやく日本は文化に目を向け、世界に発信し始めています。COOL JAPANは、まさに今の時代のミッション、皆が実現に全力を注ぐべきです。

日本は文化で食べなくて何で食べていけるか、とまで思っているので、文化力で食べていける国に、文化を産業開発できる国を目指して、今後も活動を続けていきたいと思っています。

WAO:クール・ジャパン戦略推進事業の一プロジェクトとして、「日本の工芸・文化を通じた海外での新たな日本ブランド構築」を目指し、日本の伝統工芸技法を用いつつも現代の生活様式に合ったモダンな製品を、世界に誇るクラフツマンシップとして世界に紹介するものです。
Cool Japan daily | WAO in Paris vol.1

生駒芳子(いこま・よしこ)(ジャーナリスト)

1957年兵庫県宝塚市生まれ。フリーランスのライター、エディターとして雑誌や新聞においてファッション、アートについて執筆/編集。98年よりヴォーグ・ニッポン、2002年よりエルジャポンで副編集長として活動したのち、2004年よりマリ・クレール日本版において編集長に就任。2008年 11月より独立し、現在はフリーランスのジャーナリスト/エディター活動を展開。ファッション、アート、ライフスタイルを核として、社会貢献、エコロ ジー、社会企業、女性の生き方まで、講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。2011年より、日本の伝統工芸の再生のため、工芸ルネッサンスWAOを立ちあげる。

●過去のゲストスピーカー

マーク・パンサー 無我夢中で駆け抜けたMTVの日々。小室哲哉氏との出会い。

第29回ゲストトーク マーク・パンサー氏
モデル、俳優、ミュージシャン、DJ

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「気づいていない課題」がヒットに繋がる

第28回ゲストトーク 高岡浩三氏
ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼CEO

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第32回ゲストトーク 長谷川 晋氏
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石川善樹 数字に表れる「食と健康」の関係

2016年プチ新年会 ゲストトーク 石川善樹氏
予防医学研究者、医学博士

開催日時:2016年2月19日

鈴木孝夫 日本人よ、“言葉”を外交の武器にせよ!

第27回ゲストトーク 鈴木孝夫氏
言語社会学者、慶應大学名誉教授

開催日時:2016年4月22日

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