ホテルバーテンダー初の黄綬褒章は、「挑戦」からはじまった
まず、私の経歴をお話させていただきますと、2011年、厚生労働省から卓越した技能者へ送られる「現代の名工」を受賞し、その翌年にはバーテンダーとして初の黄綬褒章を受章いたしました。お話をいただいたときは「素晴らしい先輩がたくさんいらっしゃるのに、その方々を差し置いて褒章を頂くことはできない」と思い、一度は辞退を考えました。しかし「現代の名工」の受賞も条件の一つとなることや、バーテンダーという職業が褒章を受章することは、認知度が高まると同時に大きな励みになると思い、ありがたく受けさせていただくことにしました。
ところで、なぜ私がこのような身にあまる賞をいただくことになったのか考えますと、まずは「周囲のみんなに支えられていたから」だと思います。また、さらにもうひとつ加えるとするならば、80年代に京王プラザホテルで初めてカクテルコンペティションに参加したことが評価されたからだと感じています。
実は、当時のホテルでは、コンペに積極的に参加するバーテンダーはあまり多くありませんでした。そんな中、私はエントリーのためにいつでも練習や勉強をしていたので、先輩方から応援をしていただく一方で、あまりの熱心さに少し驚かれることもありました。それほどまでに私がエントリーに熱心になっていたのは、初めてカクテルコンペティションの会場を訪れた際、そのきらびやかな世界観やバーテンダーの先輩方のすばらしい活躍を目の当たりにして、大きな衝撃を受けてしまったからでした。そこで「このような世界を自分も体験できるなら、バーテンダーとしてカクテルの新しい可能性に挑戦して、あの舞台に立ってみたい」と真剣に考えるようになったのです。