「言葉が先なのか、現象が先なのか」
ヒミ*オカジマと申します。今日は僕が物心をついたときからずっと考えている、「言葉が先なのか、現象が先なのか」ということについてお話をさせてください。
はじめに、日本で生まれてブームになって、現在では食文化にもなっている「コラーゲン」という言葉がありますが、実はこの言葉は僕がブームを作ったんです(笑)。このコラーゲンで何をやったのかと言いますと、豚足ですね。当時、捨てられてばかりだった豚足、つまりコラーゲンを使ってお店をやってみよう、と。そこで、どうしうたらブームになるかを考えたとき、日本ではじめて「美肌促進食堂」というのを謳ったんです。すると、全国から取材はもちろん、同業者や企業など、「フランチャイズをしてほしい」「商品開発してほしい」という人たちがやってきました。そこで僕は、皆さんにレシピで渡して、「どんどん真似してコラーゲンしゃぶしゃぶや食べて綺麗というネーミングを使ってください」と言ったんです。そうしたら、ものの1か月で日本中がコラーゲンブームになっていきました。
でも、そのときに僕が目指してたのは、ニューヨークでした。豚足を使ってニューヨークに行こう、と。でも、実際にアメリカに行って気づいたんですが、ニューヨークにはユダヤ人が8割近い人を占めていて、彼らは宗教上豚を食べないんですよね。そこで、どうにか豚を食べさせようと思ってやったのが、メニューに「Tonsoku」とだけ表記することでした。もちろん彼らは「豚足って何だ?」と聞いてきます。その際、必ずスタッフに「豚足はフランス人が愛する『ピエド・コション(Pied Cochon)』のことです」と言わせるようにしました。すると今度は「ピエド・コションとは何だ?」と。そこでようやく「ピエド・コションは、英語で言えば『ピッグ・フィット』です」と説明するんですが、そもそも彼らはフランスの食文化に対してリスペクトを持っている人々。「フランス人が食べるんなら、おいしいんだろう」ということで、「そのTonsokuが食べたい」と言うんです。
良い名前の最後にはすべて「ton」がつく!?
つまり、人というのは「モノ」を食べているのではなくて、「言葉」を食べているんだと気づきました。そのようなことは他にも似たような例がたくさんあります。例えば、映画です。内容がわからなくても、スティーブン・スティルバーグや宮崎駿が作った作品だと言われれば、たしかに観に行きたくなります。回転寿司のお寿司だって、「シルバーバレーの握り」と言われるよりも、「カンパチの握り」と言われた方がおいしいような気がしますよね。ディズニーランドも、やはり「千葉浦安ディズニーリゾート」ではなく、「東京ディズニーリゾート」のほうが良い気がします(笑)。
お店の名前も同様です。僕の店の店名は「Hakata Tonton」と言いますが、そもそもアメリカ人は「Tonton」のような同じ言葉が2個並ぶのを面白がる傾向があるんです。日本人としては「トン」は豚のイメージですし、面白いニュアンスは感じません。しかし、彼らは全然違って、興味深く聞こえるようです。
さらに、僕には「tonの法則」というのがあるんですが、必ず価値のあるもの、何か特別なものの名前というのは、必ずtonで終わってるんです。例えば、ホテルだったらヒルトン、シラトン、リッツカールトン。洋服だったら、ベネトン、ルイ・ヴィトン。アメリカの歴史ある街・ボストン、アメリカの首都・ワシントン。僕のつけてる時計のハミルトンだって、すべて最後に「ton」がつきます(笑)。
このように考えると、人間というのは無意識のうちに言葉に洗脳されているような気さえしてきます。だから、ヒットを狙うのだとしたら、お店の名前は自己満足でつけるのではなく、何か違う角度からアプローチしていく必要があると思うんです。
このように話しをしていて改めて気づくのは、「人生は自作自演じゃないか」ということ。「良いことも、悪いことも、すべては自分自身が創っているのではないか」と考えるんです。僕のニューヨークでのいろんな失敗を振り返ってみても、やはりその分岐点には言葉が関係しています。その経験を逆に考えれば、良い未来を作るためには、良い言葉を発すれば大丈夫ということにもなる。そのときに必要なのは、人生観です。目的がない限りは、良い言葉は創れません。「人生を通して何がしたいのか」「仕事を通して何がしたいのか」が、自分の中で明確な言葉になったときに、新しい現象と新しい仲間は自然と現れてくると思います。
皆さんもそういうタイミングが訪れるよう期待しています。今日はありがとうございました。