「気づいていない課題」がヒットに繋がる
“イノベーション”と“リノベーション”という言葉がよく使われますが、この2つの違いというのは何なんでしょうか。
例えば、テレビはイノベーションから生まれたものですね。テレビが生まれる前というのは、映像を観るためにわざわざ映画館に行く必要がありました。それをあえて家の中で簡単に映像を観られるようにしようとしたわけですから、これはイノベーションといって間違いありません。
一方、テレビを観ることに慣れ親しむようになると、人はだんだん白黒の映像では我慢できなくなってくる。そこで、テレビを改良してカラーで放映できるようした。これがリノベーションですね。
私たちネスカフェでは「ネスカフェ アンバサダー」というものを行っていますが、このサービスというのは、実は先ほどのイノベーションの発想から生まれたものでした。というのも、私たちはあのサービスを実施する前に非常に念密な市場調査を実施したんです。すると、オフィスでコーヒーを飲む人のほとんどが「社内に自動販売機があるので、いつも缶コーヒーを買う」もしくは「コンビニに行ってコーヒーを買う」と答えました。つまり、その時点では誰もコーヒーに困っていなかったんです。そのとき、私たちは逆に「しめた!」と思った。「これなら、お客さん自身が気づいてない問題を解決できる」と感じたからです。
なぜ日本は優秀な経営者が育たないのか
このようなことは、一度話を聞いたら「なんだ、当たり前ではないか」と思ってしまうものなんです。しかし、自分から発見をしようとすると、非常に難しい。市場調査で出てくる声のようなものをヒントにしているわけではなく、「誰も気づいていない問題」をわざわざ見つけてくるわけですから。
そもそも日本は一般的にイノベーション大国だと思われがちですが、実はその逆でリノベーション大国なんです。実際、日本の家電メーカーでこのイノベーションの定義に当てはまる会社があるかというと、ほとんどありません。テレビはもちろん、洗濯機も、アイロンも、現在私たちが何気なく使っている家電は、ほとんどがアメリカで生まれたものです。
高度成長期のとき、日本はこのようなイノベーションの視点を持つ経営者を育てようとせず、労働力を武器にして欧米列国よりもクオリティの高いものを作ろうとリノベーションに力を入れていました。しかもその結果、経済大国として成長ができてしまった。それゆえ、ますますイノベーションよりもリノベーションに比重を置くようになってしまったのです。
私は、日本にこのようなイノベーションを生み出す経営者が育たない土壌を作ってしまったことは、高度経済成長期の人たちの大罪だと思っています。その間違いを私たちは背負い、さらにこれからの若い人たちにも伝えながら、もう一度初心に戻ってイノベーションを勉強していかなくてはいけないのではないかと思っています。
松嶋啓介's EYE
高岡さんと私の出会いは2年前。ネスレのレギュラーソリュブルコーヒーのCMに出たことがご縁でお付き合いが始まったのですが、そのときのマーケティングが大変に面白かったんです。フェーズが3段階に分かれているんですが、第1弾は「コンセプトチェンジの周知」。第2弾では「チェンジした後のディティールの魅力を専門家が語る」ということ。そして第3弾では、「もう既に、有名レストランに置いてあるよ」ということを認知させていくんです。文化というのはこうやって刷り込んでいくんだなとあらためて勉強させていただきました。
さらにCMの記者発表会では、高岡さんがレギュラーソリュブルコーヒーについてしゃべること、しゃべること(笑)。やっぱり企業のトップこそ先頭切って行動し、熱く語ることが重要なんですよね。
「積極的に若い世代を育てることで、僕は日本を変える手伝いをする」とおっしゃってくださる高岡さん。僕たちはその言葉から大いに学び、成長していこうではありませんか!
高岡浩三(たかおか こうぞう)(ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼CEO)
1960年大阪生まれ。ネスレ日本代表取締役社長兼CEO。神戸大学卒業後、ネスレ日本に入社。ネスレコンフェクショナリー株式会社のマーケティング本部長、社長、ネスレ日本の副社長などを経て、2010年より現職に就任。「キットカット受験生応援キャンペーン」「ネスカフェ アンバサダー」などの有名プロジェクトを成功に導く。『コトラーの「予測不能時代」のマネジメント』『世界基準の働き方』『ネスレの稼ぐ仕組み』など、著書多数。