無我夢中で駆け抜けたMTVの日々。小室哲哉氏との出会い。
僕の音楽の仕事の始まりは、当時日本に上陸したてのMTVジャパンの初代VJとして。この仕事、めちゃくちゃ大変だったんです。それまでの僕はMEN’S NON-NOの専属モデルとして静止画の中で勝負していたんですが、その僕が今度は動画の世界に出て行くわけですよね。動画は自分自身が動いて、さらにしゃべらなきゃいけない。それだけでも大変だったんだけど、そこに加えてさらに番組を自分で作る役割も与えられていた。当時はネットがない時代だから、雑誌とかで音楽ジャンルについての知識や、アーティストのライブ情報や音楽の特徴を調べて自分で原稿や台本を書いていたんです。当時はそんな具合で1日5本くらいの番組を1人でやっていたんですけど、これが超勉強になりました。音楽が大好きだから苦に全然ならなくて、いろんな音楽の知識や表現方法が全部頭と身体に染み込んでいったんですよね。
そんな生活を続けているうち、MTVの仕事を見てくれていた小室さんから「会いたいんだけど」と突然電話がかかってきたんです。「MTVに出てるこいつ、面白いよね」みたいなことで声をかけてくれたそうなんですが……。呼ばれた先は、なんと2000人規模の小室さんのイベントのステージ裏。しかも、いざ会ってみたら、パッてマイクを渡されて「ステージで何かやってよ」とかって言われて。「エーッ……」ですよね(笑)。
でもそこで、それまで身体に染み込んでいた音楽が役に立ったんです。フランスのラッパー・MCソラーのジャズフレンチラップみたいなことをやってみたら、それが見事にTKサウンドに合って2000人の会場がワーッて盛り上がったんですよ。それで「お前面白いじゃん、今日からついてこいよ」と。そんな風にして、MTVの日々が自分の中の引き出しを増やしてくれてたんですよね。
DJをメディアに。人生をアートに。
小室さんと出会ってしばらくしてglobeとして活動を始めて、そこからは20年が本当に一瞬で過ぎていったなあっていう感じですね。でも、3000万枚のセールスがあっても日本レコード大賞を取っても、僕はそういうのって人の記憶からあっという間に消えてしまうものだと思うんですよ。それでどうにかみんなの記憶からなくならないように何かできないかと思って、ずっと考えていたんだけど、そこで行き着いたのが「DJをやろう」というアイデアだったんです。DJを自己表現としてだけではなくメディアとして捉えてみたら面白いんじゃないかと思って。
例えば、20代とか30代とかいろいろな年代の人たちが溢れかえる会場で、一番のピークにポンと「DEPARTURES」を流してみたら……。きっと「この曲、何?」って興味を持ってくれたり「今日DEPARTURES流れてたよね?」とその曲を思い出してくれたりすると思うんですよ。そういうことをするのが自分の役目なんだと思って。
実は僕、そこからカンヌの音楽学校に通ったんですよ。学校なんて中退してるし、「今さら学校行くの?」みたいな感じで恥ずかしかったから最初は隠してたんですけど、そこで卒業してフランスでDJの国家資格を取りました。
日本に戻って初めてDJとしてglobeをフロアでかけた時は鳥肌モノでした。六本木のクラブで1000人くらいのお客さんが盛り上がっているなか、「Feel Like dance」をかけたらボーンと爆発して。この体験ですごく見えたものがあって、今は年間約150本〜180本くらいDJをやって、自分でも曲を作るようになりました。
ちっちゃい頃からかっこいいモデルを、かっこいいラッパーを目指していたけど、今はさらにかっこいいDJ、かっこいいじいちゃんを目指したい。あくまで自然体に、自分が描いたり創るものだけではなくて、僕のこの人生そのものがアートであるように最後の最後までやっていこうかなと思っています。
マーク・パンサー(Marc Panther)(モデル、俳優、ミュージシャン、DJ)
1970年生まれ。フランス・マルセイユ出身。MEN’S NON-NO初代専属モデル、MTVジャパン初代VJを経て小室哲也らとともにglobeを結成。ラップと作詞を担当する。現在はDJ、俳優としても活動中。テレビやラジオへの出演多数。